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ID トークン / アクセストークン / userinfo

OIDC は 3 種の identity アーティファクトを扱います。一見どれもユーザ情報を持ち、どれも OP が発行または返却するので交換可能に見えますが、別物です。これを混同するのはバグの典型例です。

30 秒で頭に入れる相関図

  • ID トークン — 「このユーザがこの RP にログインした」という署名付きの認証結果。audience は RP。API には送らない。
  • アクセストークン — RP が API に渡す Bearer 資格情報。audience はリソースサーバ。既定形式は JWT(RFC 9068)、opaque はオプトイン。
  • UserInfoGET /userinfo にアクセストークンを載せて最新 claim を取りに行くエンドポイント。トークンではなく JSON レスポンス。
このページで触れる仕様
JWT とは

JWT(JSON Web Token、RFC 7519)は header.payload.signature の 3 つを . で繋いだ base64url 文字列です。header と payload は JSON、signature は対応する秘密鍵の保有者から来たものであることを暗号学的に検証する部分です。

OIDC では ID トークンは常に JWT です。本ライブラリのアクセストークンは既定では JWT(RFC 9068)ですが、OP 全体または audience ごとに opaque 形式へ切り替えられます。UserInfo は JWT ではなく、ただの JSON HTTP レスポンスです。

一覧

アーティファクト形式Audience (aud)行き先寿命読む人
ID トークン署名 JWT(常に)RP の client_idOP → RP のみ数分(既定 5 分)RP(誰がログインしたか確認)
アクセストークン既定は JWT(RFC 9068)。設定により opaque — 詳細は後述RS 識別子RP → RS(Authorization: Bearer数分RS(API 呼び出しを認可するか判断)
UserInfo responseJSONn/a(RP の client_id 暗黙)RP → OP /userinfo(アクセストークン付き) → RPリクエスト毎RP(最新 claim 取得)

ID トークン —「誰がログインしたか」

OIDC Core 1.0 §2 で定義される署名付き JWT です。RP は OP の JWKS(RFC 7517)で署名を検証し、issaudexp、(あれば)nonce を確認します。標準 claim:

Claim意味仕様
issIssuer(OP)。RP の期待値と一致すること。OIDC Core §2
subSubject 識別子 — OP 内で安定なユーザ ID。OIDC Core §2
audAudience — RP の client_id を含むこと。OIDC Core §2
azpAuthorized party — トークンを要求した client_idaud に複数値があるとき)。OIDC Core §2
exp / iat有効期限 / 発行時刻。RFC 7519
nonceauthorize 要求の nonce をエコー。リプレイ防御。OIDC Core §3.1.2.1
auth_timeユーザが認証した時刻(発行時刻ではなく)。OIDC Core §2
acrAuthentication Context Class Reference — 認証手段の保証水準。OIDC Core §2 / RFC 9470
amrAuthentication Methods References — pwdotpmfahwk 等。RFC 8176
acr とは

acr(Authentication Context Class Reference)は「ログインの強度」を表す 1 本の文字列です。語彙は OP 側で決めて構わず、urn:mace:incommon:iap:silver、NIST SP 800-63 のレベル、FAPI 系の urn:openbanking:psd2:sca などが代表例です。RP は /authorizeacr_values=... で最低水準を要求し、ユーザのセッションがそれを満たせない場合、OP は再認証を促す(step-up、RFC 9470)か要求を拒否します。amr と混同しないでください — acr水準amrその水準に到達するために使った手段 です。

amr とは

amr(Authentication Methods References、RFC 8176)は、今回のセッションでユーザが実際に提示した 要素 を表す短い文字列の配列です。pwd(パスワード)、otp(ワンタイムコード)、mfa(複数要素を使った)、hwk(ハードウェアキー)、face(顔認証)など。RP は信頼判断ではなく監査やポリシー(「管理コンソールには mfa を必須」など)の文脈で読みます — 信頼判断は acr の役目です。

auth_time とは

auth_time は、ユーザが OP に対して認証した 時刻の Unix timestamp です。iatこのトークン が発行された時刻)とは別物です。1 時間前にログインしたユーザがリフレッシュ直後だと、iat は新しくても auth_time は古いままになります。RP は max_age ポリシー(「30 分以上経っていたら再認証」)の判定に使い、OP は RP が /authorizemax_age を載せて来たときにサーバ側でも強制します。

azp とは

azp(Authorized Party)は、ID トークンを 要求した client_id です。意味があるのは aud に複数値が入っているときだけ — そのケースで「複数 audience のうちどれが実際に authorize 要求を開始したか」を曖昧でなく示します。単一 RP の通常ケースでは aud[client_id] 1 件で済むので azp は省略されます。RP は「aud が複数あるのに azp が欠けている / 自分の client_id と一致しない」ID トークンを拒否すべきです。

JWKS とは

JWKS(JSON Web Key Set、RFC 7517)は OP が /jwks(discovery 文書に記載)で配信する JSON 文書です。OP の 公開鍵 の一覧が入っており、RP は一度取得してキャッシュし、ID トークンの署名をオフラインで検証するのに使います。OP は鍵をローテーションするとき、署名に使う前に新鍵を JWKS に載せて先行公開するので、RP は再取得すればそのまま追従できます。

ID トークンを Authorization: Bearer に乗せない

ID トークンの audience は RP であって RS ではありません。Bearer として API に送ると 技術的には 通ってしまいます(JWT なので)が、意味的には誤りで、RP のシークレット相当 claim(email など)をユーザが触る全 API に晒すことになります。API にはアクセストークンを使ってください。

アクセストークン —「このクライアントはこの API を呼べる」

リソースサーバ(RS)が検証する Bearer トークン(RFC 6750)。OAuth の文献では古典的に 2 つの形式が並べられます:

形式検証方法OP 側の状態
OpaqueRS が毎回 /introspect(RFC 7662)を呼ぶ。OP がトークンに対応する行を保持。
JWT (RFC 9068)RS が署名 + aud + exp を self-contained に検証。ステートレス — 検証に行は不要。

ここが本題: session_end / userinfo / revocation はトークン履歴に依存する

純粋ステートレス JWT には「まだ有効か」を表す手段が exp 以外にない

スライド上はきれいに見えますが、本番では複数の OIDC フローを壊します。ステートレス JWT アクセストークンを運用する OP は「失効処理そのものを諦める」か「外部 deny-list を別途用意する」かの二択になります。

フロー本来の判定純粋ステートレス JWT で壊れる箇所
/userinfo(OIDC Core §5.3)このトークンは今もユーザを正しく代表しているかOP が参照する材料を持たない。ログアウト済みユーザに対しても claim が返る。
/end_session(RP-Initiated Logout)セッションを終了させるJWT は exp まで動き続ける。「ログアウト」した直後でも、漏洩したトークンがあと 10 分 API を呼び出せる。
/revoke(RFC 7009)特定トークンを無効化no-op。RFC 7009 §2.2 は self-contained トークンに revocation を実装しないことを許容しています。
/introspect(RFC 7662)revoke 済みトークンに active: false を返す反映できるのは署名 / exp だけ。セッション状態には到達しない。

「JWT vs opaque」記事ではしばしば軽く流される論点ですが、本番運用では重く効いてきます。

本ライブラリの設計

本ライブラリは JWT(RFC 9068)を既定とし、opaque をオプトインとして用意します。どちらの形式も OP 側で revoke 可能 です。意味があるのは次の 2 軸: (1) RS は毎リクエスト OP に問い合わせる必要があるか?(2) ログアウトカスケードはどこまで届くか? です。

既定 — JWT(RFC 9068)オプトイン — Opaque
通信路上の形式base64url JWT(header.payload.signatureランダムな bearer 文字列
RS 側の検証JWKS でオフライン検証リクエスト毎に /introspect を呼ぶ
発行時の OP 側状態なし — JWT の gid private claim だけstore.OpaqueAccessTokenStore にハッシュ化した行
カスケードの到達範囲OP が経由する境界(/userinfo/introspectRS の全リクエスト
発行時の監査証跡既定では無し。RevocationStrategyJTIRegistry をオプトインすると発行ごとに 1 行発行ごとに 1 行(自動)
設定方法(既定)op.WithAccessTokenFormat(...) あるいは RFC 8707 の resource 毎に op.WithAccessTokenFormatPerAudience(...)

カスケードの及ぶ範囲は形式に依存する

/userinfo/introspect/revoke/end_session・認可コード再利用検出のカスケードはすべて OP 側の状態を参照します。revoke 済み / ログアウトでカスケード失効したトークンは /userinfoWWW-Authenticate: Bearer error="invalid_token" を返して拒否されます — JWT の署名がまだ通っていてもです。

ただし、検証経路が OP を経由する場合に限ります。 JWKS でオフライン検証している RS は次の refresh ローテーションまでカスケードを察知しません。

opaque 形式はこのギャップを閉じます — すべての使用が OP 解決になるためです。

jti / gid / tombstone とは

各アクセストークン JWT は jti(RFC 7519 §4.1.7、トークンごとの一意 ID)と gid という private claim(OP 側の GrantID、omitempty)を含みます。gid は OP だけが解釈する claim で、RS は無視します。

既定 — grant-tombstone 戦略。 OP は grant ごとの小さな tombstone テーブルを保持し、検証時に JWT の gid を tombstone と突き合わせます。単一 AT の /revocationjti をキーにした deny-list 行を 1 件書き込みます。定常状態の行数は O(失効した grant 数 + 失効した jti 数) であり、O(発行数) ではありません。

オプトイン — JTI registry 戦略RevocationStrategyJTIRegistry)。OP は発行ごとに jti をキーにした shadow 行を 1 件書き込み、失効時には行の Revoked 列を反転させます。発行ごとの監査証跡が必要なときに有効。

Opaque 形式。 別サブストアを使います。行は bearer ID の SHA-256 digest をキーにし、RS は JWT を解読するのではなく /introspect を呼んで行に到達します。

JWT と opaque の選択は意図的な設計判断

トレードオフ・負荷の形・設定オプションは専用ページにまとめてあります: アクセストークンの形式 — JWT と opaqueWithAccessTokenFormat を切り替える前に必ず読んでください — この選択は RS のコード、運用上のレイテンシ、そして自分のデプロイにとって「ログアウトされた」が何を意味するか、に直接効いてきます。

aud についての注意

アクセストークンの audclient_id ではなく、リソースサーバの識別子です(クライアント seed の Resources []string フィールド、またはランタイムの RFC 8707 resource リクエストパラメータで決定)。

RS 側での /introspect のキャッシュ戦略

/introspect(RFC 7662)への OP の応答は、その応答を発行した瞬間 についての権威ある回答です。RS 側でこの応答をキャッシュすること自体は仕様上認められており、レイテンシ要件によっては必須ですが、トークンの 失効到達距離 が変わります — 「OP でこのトークンが revoke された」から「この RS が拒否し始める」までの時間が、キャッシュ TTL の分だけ広がります。

キャッシュ戦略レイテンシ / OP 負荷失効ギャップ
キャッシュなし — RS は API 呼び出しごとに /introspect を呼ぶ。RS のホットパスでレイテンシが最大、OP の /introspect が呼び出しごとの依存になる。ゼロ — API 呼び出しは毎回 OP の現在状態を観測。
長いキャッシュ(例: 5 分)OP 負荷は最小、ただしキャッシュエントリが期限切れになるまで失効が伝播しない。TTL の分まで — ログアウトしたユーザのトークンがキャッシュ窓の残り時間だけ動き続ける。
短いキャッシュ(60 秒以下)OP 負荷は有界、レイテンシペナルティは窓の最初の呼び出しのみ。TTL の分まで — 多くの運用セキュリティ要件を満たすほど短く、バーストを吸収するには十分長い。

推奨デフォルト

  • キャッシュキーはアクセストークンのハッシュ(bearer 文字列の SHA-256)にする。client_id 単独はダメ — 同じクライアントの異なるセッションがキャッシュ行を共有してしまう。
  • セキュリティ重視 API は TTL 60 秒以下 — アカウント変更、決済、管理用エンドポイントなど。30 秒は無難なデフォルトで、ギャップを「ユーザが気付かない程度」に抑えられます。
  • op.AuditTokenRevoked を購読しているなら、それで invalidate する。 RS が OP の監査ストリームに繋がっていれば、有界ギャップは「監査パイプラインの伝播速度」相当 — 通常は 1 秒以下になります。
  • 破壊的アクションではキャッシュしない。 アカウント削除、送金、ロール付与、巻き戻しできない書き込みは、毎回 OP に再確認を取ってください。レイテンシコストは確かに発生しますが、代替は「ユーザがログアウトボタンを押したのにキャッシュ窓の間に攻撃者が口座を空にした」です。

このトレードオフは revocation 有効の JWT アクセストークンにも対称に当てはまります。JWT の検証は JWKS に対するオフライン検証 — RS は OP を呼ぶ必要すらありません — が、オフライン検証では失効が見えません。OP が経由する境界(/introspect/userinfo)と、その背後の grant-tombstone 参照こそが失効の正本です(tombstone 戦略については設計判断 #19 を参照)。/userinfo と同じ失効到達距離を RS で得たい場合は、次のいずれかになります:

  1. /introspect を呼ぶ(上記いずれかのキャッシュ戦略と組み合わせて)
  2. OP の監査ストリームを購読して、op.AuditTokenRevoked をオフライン JWT 検証用の deny-list ソースとして扱う

どちらもしない — 純粋オフライン JWT 検証、introspection なし、監査購読なし — を選ぶと、失効はリフレッシュトークンの次回ローテーション時にしか伝播しません。低リスク API では受容可能な選択ですが、これは意図的なトレードオフであって、仕様が暗黙に保証してくれる既定値ではありません。

UserInfo —「このアクセストークンに対する最新 claim をくれ」

GET /userinfo(OIDC Core §5.3)にアクセストークンを載せて呼ぶだけ。アクセストークンの scope の範囲でユーザ claim の JSON を返します。

sh
curl -H "Authorization: Bearer <access_token>" https://op.example.com/oidc/userinfo
# {
#   "sub": "alice123",
#   "email": "alice@example.com",
#   "email_verified": true,
#   ...
# }

UserInfo を使うべきとき

  • ID トークン claim はログイン時点のスナップショットです。
  • UserInfo は最新値の参照経路 — ユーザが変えうる値(表示名など)が必要なら呼びます。

ほとんどのアプリは ID トークン claim で足ります。UserInfo は最新性が必要なときに使ってください。実装上は、ライブラリがアクセストークンの shadow 行を先に確認するので、ログインから UserInfo 呼び出しまでの間に revoke されたトークンは、JWT の署名が通っていても拒否されます。

設定オプション

オプション制御対象既定
op.WithAccessTokenTTL(d)アクセストークン寿命5 分
op.WithRefreshTokenTTL(d)リフレッシュトークン寿命30 日
op.WithRefreshTokenOfflineTTL(d)offline_access リフレッシュトークン寿命WithRefreshTokenTTL 継承
op.WithClaimsSupported(...)OP が返せる claim の列挙。discovery 文書に出る
op.WithClaimsParameterSupported(false)OIDC §5.5 の claims 要求パラメータを広告せず、malformed JSON の拒否後は処理しないon
op.WithStrictOfflineAccess()発行とリフレッシュ交換を OIDC Core §11 の厳格解釈に切り替え、offline_access が granted scope に含まれているときに限りリフレッシュトークンを発行・受理する(下の callout 参照)off(緩い設定。openid + クライアントの refresh_token grant で発行)
offline_access とは

offline_access は OIDC 標準 scope(Core §11)で、「ユーザがその場にいなくてもアプリに動き続けてほしい」を表明する scope です。実運用上は、リフレッシュトークン発行に対するユーザ向け同意ゲートとして働きます。OP は通常より強い同意プロンプト(「あなたが居ないときも、このアプリはあなたの代わりに動けます」)を出し、本ライブラリではここで発行されたリフレッシュトークンを別 TTL バケット(WithRefreshTokenOfflineTTL)に振り分けるので、ログイン状態の維持フローを通常の短寿命リフレッシュより長く生かせます。

WithStrictOfflineAccess を入れる理由

OIDC Core §11 の既定(緩やかな)解釈では、granted scope に openid が含まれ、かつクライアントの GrantTypesrefresh_token がある場合にリフレッシュトークンが発行されます。このとき offline_access は同意プロンプトの UX とどの TTL バケットを使うかを切り替えるだけです。同意プロンプトと実際の発行ゲートをビット単位で揃えたいときに厳格解釈を選んでください。代償として、ログイン状態を維持したい RP はすべて明示的に offline_access を要求する必要があります。

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