使い方 — FAPI 2.0 Baseline
FAPI 2.0 とは
FAPI("Financial-grade API")は OpenID Foundation が策定する OAuth 2.0 のセキュリティプロファイル群です。認証済みユーザの識別子が必要な場合には OIDC を使用します。現行の FAPI 2.0 Security Profile は、PAR、S256 の PKCE、送信者制約付きトークン(DPoP または mTLS)、confidential クライアント、PS256 / ES256 / EdDSA の JWT alg を要求します。Security Profile の要件に JAR は含まれず、ID Token の署名も ES256 だけに限定していません。既定の mount が /oidc なら endpoint は /oidc/auth になります。本ライブラリの profile.FAPI2Baseline は JAR を追加し、クライアント認証に private_key_jwt を使い、現在は ID Token を ES256 のみで署名します。
銀行・医療・行政の運用では、「安全なオプションを全部覚えているか」ではなく「決まったチェックリストに対して監査できるか」が問われます。FAPI 2.0 は FAPI 1.0(こちらも依然現役)の後継です。最終版の FAPI 2.0 文書の名称は Security Profile で、本ライブラリはその設定を profile.FAPI2Baseline と呼びます。本ライブラリの別の Message Signing 設定は JARM、DPoP nonce source の制約、応答署名の動作を追加します。これらは本ライブラリの設定の挙動であり、最終版の Security Profile の要件ではありません。
本ライブラリは Baseline を プロファイル 1 つの指定(op.WithProfile(profile.FAPI2Baseline))として公開します。本ライブラリの必要なチェックをまとめて有効にし、ライブラリのプロファイルに反する構成では op.New 自体が起動を拒否します。
PAR / JAR / JARM / DPoP / mTLS / ES256 など各略号の解説は FAPI 2.0 入門 にあります。本ページは構成例を扱います。
このページで触れる仕様
ソース:
examples/03-fapi2/main.goはプロファイルのフローを扱います。examples/50-fapi-tls-jwksは、TLS 1.2 の FAPI 1.0 RW cipher allow-list 用op.FAPITLSConfig()と、client 登録前に private JWK material を取り除くop.LoadPublicJWKSを示します。Go は TLS 1.3 の cipher suite allow-list を公開していないため、TLS 1.3 配備では独自のtls.Configが必要です。
本ライブラリの FAPI2Baseline が強制するもの
| 要件 | RFC | ライブラリの挙動 |
|---|---|---|
| Pushed Authorization Requests | RFC 9126 | プロファイルが feature.PAR を自動有効化。/par で得た request_uri を authorize の入口にする。 |
| Proof Key for Code Exchange | RFC 7636 | code_challenge_method=S256 必須、plain 拒否。 |
| 送信者制約付きトークン(DPoP または mTLS) | RFC 9449 / RFC 8705 | このプロファイルでは profile.RequiredAnyOf が {DPoP, MTLS} を返すため、どちらか一方を満たせばよい。どちらも指定されていなければ、コンストラクタがインフラ前提の少ない DPoP を既定として選ぶ。 |
| JWT alg | FAPI 2.0 §5.4.1 | プロファイルが許可するのは PS256、ES256、EdDSA です。本ライブラリの id_token_signing_alg_values_supported は ["ES256"] のままで、RS256 / none / HS* は公告しません。 |
redirect_uri 完全一致 | ライブラリのポリシー | 本ライブラリは事前登録済み URI とのバイト単位の一致を求め、ワイルドカードを認めません。現行の FAPI 2.0 Security Profile は、認証済み PAR リクエストに redirect_uri を含めることを求めますが、事前登録は必須としていません。 |
| クライアント認証 | FAPI 2.0 §5.3.2.1 | FAPI は mTLS または private_key_jwt を認めます。本ライブラリが token endpoint のクライアント認証で処理するのは private_key_jwt だけです。mTLS は送信者制約を満たせますが、mTLS クライアント認証の経路は未接続です。 |
アーキテクチャ
コード(examples/03-fapi2 からの抜粋)
import (
"github.com/libraz/go-oidc-provider/op"
"github.com/libraz/go-oidc-provider/op/feature"
"github.com/libraz/go-oidc-provider/op/grant"
"github.com/libraz/go-oidc-provider/op/profile"
"github.com/libraz/go-oidc-provider/op/storeadapter/inmem"
)
const (
demoIssuer = "https://op.example.com"
demoClientID = "fapi2-example-client"
demoRedirectURI = "https://rp.example.com/callback"
)
st := inmem.New()
loginFlow := op.LoginFlow{Primary: op.PrimaryPassword{Store: st.UserPasswords()}}
provider, err := op.New(
op.WithIssuer(demoIssuer),
op.WithStore(st),
op.WithKeyset(opKeys.Keyset()),
op.WithCookieKeys(opKeys.CookieKey),
op.WithLoginFlow(loginFlow),
op.WithGrants(grant.AuthorizationCode, grant.RefreshToken),
op.WithProfile(profile.FAPI2Baseline), // <--- プロファイル切り替え
op.WithFeature(feature.DPoP),
op.WithStaticClients(op.PrivateKeyJWTClient{
ID: demoClientID,
JWKS: clientJWKs, // 公開 JWK Set を JSON バイト列で
RedirectURIs: []string{demoRedirectURI},
Scopes: []string{"openid", "profile", "email"},
GrantTypes: []string{"authorization_code", "refresh_token"},
ResponseTypes: []string{"code"},
}),
)PrivateKeyJWTClient は FAPI クライアント用の型付きクライアント定義で、token_endpoint_auth_method=private_key_jwt を自動で設定します。組み込み側でこのフィールドを書く必要はありません。同じ系統の型として op.PublicClient と op.ConfidentialClient があり、3 つすべてが op.ClientSeed を実装し、WithStaticClients(seeds ...ClientSeed) に渡せます。
本ライブラリで WithProfile を指定すると、OP は次のように振る舞います。
feature.PARとfeature.JARを自動で有効にします。token_endpoint_auth_methods_supportedを FAPI 2.0 §5.3.2.1 の許可リストと突き合わせて絞り込みます。token endpoint 用のクライアントはprivate_key_jwtで構成してください。id_token_signing_alg_values_supported = ["ES256"]を維持します。OP は ES256 でしか ID Token を署名・広告しません。これは本ライブラリの現在の鍵セットポリシーであり、FAPI 2.0 Security Profile はPS256とEdDSAも許可します。redirect_uriの完全一致を強制します。ワイルドカードはどこにも許しません。- DPoP または mTLS の送信者制約要件を満たします。
feature.MTLSが明示されていればそれを尊重し、どちらも選ばれていなければfeature.DPoPを追加します。
JAR では profile.MaxRequestObjectAge(profile.FAPI2Baseline) が 60 * time.Minute を返します。op.New はこの値を request-object verifier に渡し、署名済み request object の iat 経過時間に適用します。nbf と exp の検証も引き続き行われます。
DPoP の代わりに mTLS
プロファイルの既定の送信者制約方式は、TLS クライアント証明書の設定が不要な DPoP です。mTLS に標準化している配備では feature.MTLS を明示し、TLS 終端プロキシ用に op.WithMTLSProxy(...) を設定してください。その明示選択があれば DPoP 既定は追加されません。
ここが意味するのは mTLS 送信者制約であり、token endpoint の mTLS クライアント認証ではありません。クライアントは private_key_jwt で登録し、転送された証明書は発行アクセストークンをクライアント鍵に結びつけるために使います。
公開面確認
curl -s http://localhost:8080/.well-known/openid-configuration | jq '{
pushed_authorization_request_endpoint,
request_parameter_supported,
dpop_signing_alg_values_supported,
token_endpoint_auth_methods_supported,
id_token_signing_alg_values_supported
}'期待値:
{
"pushed_authorization_request_endpoint": "http://localhost:8080/oidc/par",
"request_parameter_supported": true,
"dpop_signing_alg_values_supported": ["ES256", "EdDSA", "PS256"],
"token_endpoint_auth_methods_supported": ["private_key_jwt"],
"id_token_signing_alg_values_supported": ["ES256"]
}id_token_signing_alg_values_supported はプロファイルに関係なく ["ES256"] のみで、OP が発行する ID Token はすべて ES256 署名です。現行の FAPI 2.0 Security Profile は JWT alg として PS256、ES256、EdDSA を許可します(§5.4.1)。本ライブラリの ID Token を ES256 のみにするポリシーは、これより厳しい設定です。dpop_signing_alg_values_supported は DPoP proof 受理用で ["ES256", "EdDSA", "PS256"] です。
適合状況
本ライブラリの profile.FAPI2Baseline はポリシー設定であり、現行の最終版 Security Profile の全要件への適合を主張するものではありません。コア実装はリフレッシュトークンをローテーションしますが、FAPI 2.0 Security Profile §5.3.2.1(9) は例外的な状況を除く通常運用でのローテーションを禁止しています。また、クライアントアサーションの検証では aud にトークンエンドポイントの URL や配列も受け付けますが、§5.3.2.1(8) は issuer 識別子の文字列だけを求めます。適合を主張する前に、これらの差分を確認してください。
OFCS の fapi2-security-profile-id2-test-plan はこの実装を検査します。最新ベースラインでは 48 PASSED / 9 REVIEW(手動レビュー)/ 1 SKIPPED(追加のクライアント鍵が必要な RSA 鍵での負例)/ 0 FAILED です。
OFCS 全体像と REVIEW / SKIPPED 内訳は OFCS 適合状況 を参照。