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時刻ずれとリプレイ猶予

OIDC が扱う署名済みアーティファクト、つまり認可コード、リフレッシュトークン、DPoP proof、JAR オブジェクト、PAR レコード、ID トークン、アクセストークン、client_assertion は、発行時刻 (iat) と有効期限 (exp) を持ちます。OP の時計がずれると、クライアント側では期限切れと見なされる署名物を OP が受理してしまいます。リプレイ検出テーブルを持たなければ、同じ署名物を 2 度受理してしまいます。OP はこの両方を防ぐために、受理できる時間幅を決め、観測した識別子をその時間幅が閉じるまで保持し、範囲外のものを拒否します。

本ページは、ライブラリが適用する時刻関連の猶予、対応する定数またはオプション、該当機能を解説しているページを 1 つの表にまとめます。OP を組み込む際にセキュリティ観点でレビューするなら、まずこの表が出発点になります。

時計の発生源

OP が判定するすべての TTL は、op/clock.go で定義されている wall-clock インターフェース op.Clock.Now() を基準に計算されます。

go
type Clock interface {
    Now() time.Time
}

実運用ではこのフィールドを設定せずに渡せば、ライブラリ側が time.Now() を使う実装を組み込みます。テストや決定論的なリプレイ検証のハーネスでは fake Clock を渡すことで、トークン TTL、監査タイムスタンプ、レートリミットの時間幅を制御できます。コードベース内には、新鮮性判定のために直接 time.Now() を読む箇所はありません。すべての新鮮性判定はこのインターフェースを通ります。「今何時か」という判断が、あちこちに散らばらず、モック可能な 1 か所に集約されています。

組み込み側への含意として、NTP / chronyd は必須です。OP は自分の wall clock を信用して iatexp を現在時刻と比較します。時計が分単位でずれているマシンでは、クライアント側では古いと判断される proof を OP が受理したり、逆にクライアントが署名したばかりの proof を拒否したりします。OP は時刻同期が確立されているホストでのみ動かしてください。

猶予と TTL の一覧

対象防御方法既定の窓 / TTL関連ページ
認可コードone-time consumption + TTLDefaultAuthCodeTTL = 60 s/ja/concepts/authorization-code-pkce
リフレッシュトークン (ローテーション猶予)直前のトークンを猶予期間内は受理refresh.GraceTTLDefault = 60 s(op.WithRefreshGracePeriod で変更可)/ja/concepts/refresh-tokens
DPoP proof — iatサーバ時刻に対する対称な許容幅dpop.DefaultIatWindow = 60 s/ja/concepts/dpop
DPoP proof — jti キャッシュリプレイ重複検出iat 窓と同じ/ja/concepts/dpop
JAR (RFC 9101) request object — jti キャッシュリプレイ重複検出OP 側キャッシュ。request object 自身の exp を境に削除/ja/security/design-judgments#dj-6
JAR — 未来側ずれ許容nbf / iat の許容幅jar.DefaultMaxFutureSkew = 60 s/ja/security/design-judgments#dj-6
PAR (RFC 9126) request_uri 寿命一回限り、短寿命parendpoint.DefaultTTL = 60 s/ja/concepts/fapi
Back-Channel Logout tokenOP は 1 度だけ署名、RP 側で重複検出OP は jti キャッシュを持たない (RP 側の責務)/ja/use-cases/back-channel-logout
ID トークンiat + expexp - iat = リクエスト時の AccessTokenTTL/ja/concepts/tokens
アクセストークン (JWT または opaque)iat + expDefaultAccessTokenTTL = 5 分、上限 AccessTokenTTLMax = 24 h(FAPI プロファイルは 10 分まで)/ja/concepts/tokens
リフレッシュトークン (絶対寿命)発行時の exptimex.RefreshTokenTTLDefault = 30 日/ja/concepts/refresh-tokens
client_assertion (private_key_jwt)iat + exp + jti 重複検出、±60 秒の clock leewayjtiexpiresAt = assertion.exp で記録。clock leeway 既定 60 秒/ja/concepts/client-types

「既定の窓 / TTL」列の定数は、隣接するライブラリ本体のソースを読んで確認した一次情報です。ライブラリ側で既定値が変わったときに最初に追従すべきページがここです。

ここでの「リプレイ」とは

仕様文では replay は 1 語ですが、コード上の防御は 3 種類に分かれます。

トークンリプレイ — 同じ bearer 形式のクレデンシャルを 2 回提示する形です。認可コードは初回使用時に 消費 されます(AuthorizationCodeStore の該当行が使用済みに切り替わります)。リフレッシュトークンは引き換えのたびに ローテーション し、猶予期間が閉じた後に直前のトークンを提示すると、リユース検出によって失効カスケードが走ります。DPoP proof は jti重複検出 されます。検証器は受理した proof の jtiConsumedJTIStore に記録するため、同じ jti を持つ 2 個目の proof は、2 回目の nonce が新鮮であっても ErrProofReplayed を返します。

リクエストリプレイ — 同じ /authorize リクエストを同じパラメータで再送信する形です。PAR は一回限りの request_uri を発行するため、構造的にこのリプレイを防ぎます。/authorize がその URN を消費した時点で、レコードは PushedAuthRequestStore から消えます。JAR(request= でインライン渡しする request object)は同じ ConsumedJTIStore サブストアに対して jti 重複検出を行い、jar:<clientID>:<jti> 形式のキーで保持して、request object 自身の exp を境に削除します。

ログアウトリプレイ — 同じ logout_token を RP に対して 2 度 POST する形です。Back-Channel Logout 1.0 §2.6 は重複検出の責務を RP 側に置きます。OP は 1 度だけ署名して配送し、各 RP は自分が観測した logout-token の jti を必要に応じて記録します。OP 側に logout-token のリプレイキャッシュを持たないのは、重複検出すべき境界が RP 側にあるからです。

この 3 つを併せて読むと、アーティファクトの 使われ方 が防御方法を決めていることが分かります。認可コードは消費する、リフレッシュトークンはローテーションする、DPoP / JAR / client_assertion は明示的な jti を共有の重複検出テーブルに記録する、ログアウトトークンは重複検出を受信側に委譲する、という形です。

運用上の前提

ConsumedJTIStore (op/store/jti.go で宣言) は jti ベースの防御がすべて経由する契約です。DPoP、JAR、client_assertion のいずれも同じサブストアの Mark(ctx, key, expiresAt) を呼びます。キーの名前空間 (jar:<clientID>:<jti> と、DPoP / assertion 用の素の jti) によって衝突が避けられています。

複数インスタンス構成では、このサブストアを全インスタンスで共有するか、または特定の jti の存続期間中はその jti を同じインスタンスへルーティングする必要があります。複数レプリカそれぞれに in-memory 実装を持たせると、この防御は無効化されます。レプリカ A とレプリカ B が同じ proof を 1 度ずつ、合計 2 度受理してしまうためです。Redis / Memcached のような高速な共有キャッシュが標準的な選択肢で、これに伴う揮発 / 永続ストアの分離指針は /ja/operations/multi-instance で扱っています。

ConsumedJTIStore はトランザクション対象の永続ストアの外側に明示的に置かれています(op/store/tx.go 参照)。操作は冪等です。最初に書いた側が勝ち、後続の書き込みは consumed として観測されます。キャッシュが完全に消えても、攻撃者がリプレイできる時間幅は各アーティファクトの残り寿命に限られます。DPoP は iat 窓、JAR / client_assertionexp で上限が決まります。表中の窓がいずれもおおむね 60 秒以下に収まっているのはこのためです。

もう 1 つの運用上の前提は wall clock 自体です。すべてのレプリカは同じ OP コード・同じ既定値で動いていても、レプリカ間の時計が該当する猶予を超えてずれると、同じアーティファクトが新鮮かどうかについて判断が割れます。フリート全体の NTP 規律はセキュリティ姿勢の一部であり、付け足しではありません。

エッジケース

サマータイムや閏秒は無関係です。OP が保持するタイムスタンプはすべて Unix epoch 秒です。DST 移行や閏秒調整が epoch を動かすことはありません。表中の定数はすべて純粋な time.Duration 値であり、60 秒の猶予は 10 月最終日曜日の深夜をまたいでも 60 秒のままです。

長寿命トークンと短い窓の組み合わせ。リフレッシュトークンの既定は 30 日、ローテーション猶予は 60 秒です。この組み合わせは意図的なものです。長い寿命によって、妥当なネットワーク断絶下でもバックグラウンド同期クライアントを支えます。一方で短い猶予によって、漏洩した直前のトークンが正規クライアントのローテーション後に使える時間を抑え込みます。本ライブラリはネットワークの瞬断下でも、リプレイを黙って受理して可用性を優先するのではなく、リユース検出による失効カスケードを優先します。60 秒という窓は、典型的なモバイル端末の retry を覆える最小幅でありながら、直前のトークンが長く使える状態を残さない値として選ばれています。トレードオフの判断は /ja/security/design-judgments にあります。

DPoP nonce と DPoP iatiat claim は クライアント が署名するため、クライアント側が短期に侵害されると、60 秒分の窓に対して有効な proof を事前生成される可能性があります。DPoP nonce(RFC 9449 §8)は、サーバ制御の新鮮性シグナルを追加してこの隙間を埋めるものです。クライアントは OP が返した nonce を次の要求で送り返さなければなりません。両者は独立に検証され、iat 窓を通過しても nonce 検証に失敗した proof は拒否されます。新鮮な nonce を持っていても、iat が古い proof も拒否されます。詳細なフローは /ja/concepts/dpop/ja/use-cases/dpop-nonce を参照してください。

stale-nonce と jti 消費の順序。DPoP 検証器は nonce ゲートを通過した jti を記録します。nonce 検証に失敗した proof は ConsumedJTIStore を進めないため、新鮮な nonce で retry したクライアントは同じ jti を 1 度だけ再提示できます。nonce ゲートを通過した proof がさらに新しい nonce で再提示された場合は、jti が既に記録されているため ErrProofReplayed が返ります。順序は internal/dpop/verify.go のインラインコメントに記載されています。

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